お勧めの一冊

AVALANCHE! HASTY SEARCH
The care and Training of Avalanche Search and Rescue Dogs


パティ・バーネット著   ドーラル出版社刊

 2003年6月、アメリカで初めての雪崩救助犬の本が出版されました。アメリカでは数多くの捜索救助犬に関する本が出版されてきましたが、雪崩救助犬に焦点を当てた本はこれが初めてです。

 著者はアメリカ、コロラド州のコッパーマウンテン・スキー場でスキーパトロールを職業とするパティ・バーネットという女性です。アメリカでは雪崩救助犬の第一人者として、現場で活躍するかたわら、全米での講演も精力的にこなしています。1997年にはAvalanche Dog Training「雪崩救助犬トレーニング」というビデオも発売しました。

 「ハンドラーと救助犬による雪崩捜索における成功の可能性を最大限に高めるお手伝いをしたいと思っています。雪崩捜索にはチームワークが必要であること、そして全身全霊を打ち込まなければ努力は報われないことを始めから理解しておくことが必要です。まだ犬のパートナーがいない方は、まっさらな状態から始めることができるという強みがあります。
  私はアメリカで最も優秀な雪崩専門家、救助犬ハンドラー、そして私の4本足のパートナー、ヘイスティーとサンディを始めとする救助犬達とともに、学びそして捜索するという恩恵をこうむることができました。私達は20年以上に渡り、コッパーマウンテン・スキーパトロール、サミット郡レスキューグループ、コロラド州捜索救助犬という3団体と行動をともにしてきました。わが家のあるコロラド州サミット郡は、アメリカにおける雪崩事故と犠牲者の数で不名誉にも他の地域を卓越しています。まだ初期の頃、最初の救助犬ヘイスティーと私は、何のまえぶれもなく、いきなり雪崩捜索の真っ只中に放り込まれたのでした。覚悟ができていようがいまいがお構いなしだったのです。私はその経験が貴重なものであり、他の救助犬ハンドラーと共有する大きな責任があると考えました。“その時”が来たら、人の命を左右しうることを覚悟してほしいのです。」(序文より)

 日本では、まだ馴染みの薄い雪崩救助犬ですが、世界有数の雪崩大国として、近い将来雪崩救助犬が活躍する日が必ずやってくることと思います。これから雪崩救助犬を育てたいと考えている人、スキー場管理者、スキーパトロール、雪崩専門家、バックカントリースキーヤーやスノーボーダーなど、雪に関わる人達にとっては非常に興味深く読んでもらえる本です。

 犬好きな人向けの本にとどまらず、捜索救助者として雪崩救助犬を連れて現場に出るとはどいういうことなのか、実際の事故の数々をケーススタディとして分析しています。救助犬ハンドラーだけでなく、雪崩に関わる人達、雪崩事故に出動する人達にとっても、アメリカの雪崩事故対応がよく分かり参考になることでしょう。以下のその中の一つを取り上げてみます。

本の内容を目次に沿って簡単に紹介します。

第一章     ハンドラーの準備

  雪崩救助犬ハンドラーとして雪崩事故現場に出る、ということはどういうことなのか。ボランティアという言葉だけではすまされない厳しい現実を見据えています。

第二章     装備

  救助隊の一員として、雪崩事故現場には欠かせない装備、ならびに救助犬の装備を紹介しています。雪崩ビーコン、プローブ、スコップはさることながら、雪崩捜索に欠かせない装備や雪崩救助犬用装備を解説。

第三章     子犬の選択

  救助犬としての適正を見極める子犬の選択。子犬の性格や健康、犬種、牡か牝か、純血種か雑種か、など、子犬を選ぶ基準を説明。

第四章     雪崩救助犬の基本訓練

  服従訓練、社会化、褒めとご褒美、コマンド(号令)など、働く犬として必要不可欠な基本訓練と、雪崩救助犬として特有の基本訓練が書かれています。

第五章   雪崩救助犬の捜索訓練

  雪崩事故現場で埋没された人間を捜す、とうい仕事をする犬を育成するために、初歩レベルから上級レベルまで、段階を追って説明しています。初歩レベルは、追いかけっこと隠れんぼ。そこから次第に難易度を上げて訓練し、最終的には雪崩事故現場を再現した訓練をします。

第六章     雪崩救助犬の健康

  雪のある現場で働く犬を扱う上で、ハンドラーが知っておかなければならない犬の健康に関する知識。健全な犬の体躯、子犬の時に注意すること、コンディショニングと持久力、機敏性、雪山における脱水症状、良い獣医とは、など。

第七章     臭いと雪

  雪崩救助犬はその優れた嗅覚を使い、雪面下に存在する人間の臭いを捜します。では、臭いは雪の中でどのような動きをするのでしょうか?基本的な臭跡理論と、雪の中での臭いの動き方、風や埋没深や雪の層が臭いの動き方に与える影響、臭いに対する犬の反応などが書かれています。

第八章     認定試験

  雪崩救助犬として訓練を積んだ後、次に必要なのが認定資格の取得です。コロラド州の捜索救助チームの認定基準を例にとって、救助犬とハンドラーに要求される基準を解説しています。

第九章     捜索計画

  実際の現場でいかに雪崩救助犬を有効に使うかが示されています。科学的捜索方法に基づき、犬の投入位置や捜索範囲を決めていきます。また捜索救助者の安全のために、現場での判断の基準も書かれています。

第十章     捜索本部

  雪崩現場に出動すれば、必ず捜索本部を通します。捜索現場での注意や、捜索隊長とうまくやる方法、さらにはCISD(心傷性災害ストレスデブリーフィング)について、など、現場で有効な知識が説明されています。

第十一章                        啓蒙活動と雪崩に対する知識

  救助犬ハンドラーとしての社会的な振舞いの重要性、雪崩講習会の受講、スキー場におけるPR活動、資金集め、など、救助犬の訓練以外でもやらなければならないことが山積みです。

第十二章                        捜索

  実際に起こった雪崩事故をケーススタディとして検証し、そこからの教訓を学びます。12件の雪崩事故を取り上げています。

第十三章                        友よさらば

  雪崩救助犬ハンドラーとして、パートナーの犬を亡くす哀しみを二つの詩と一つの雪崩事故を通してあらわしています。

第十四章                        用語解説

  雪崩救助犬に特有の用語を解説。

第十五章                        付録

  良く聞かれる質問とそれに対する答え、雪崩救助犬を訓練する際の安全事項、万が一自分が雪崩に巻き込まれた時の対策、万が一同行者が雪崩に巻き込まれた時の対策、雪崩救助犬訓練記録用紙、雪崩救助犬出動記録用紙

第十六章                        関連書籍

  関連書籍一覧

第十七章                        救助犬、雪崩に関する情報

  雪崩、雪崩救助犬関連ウェッブサイト一覧

第十八章                        索引



コロラド州モンテズマにおける雪崩事故捜索
(第12章 捜索 より)

背景:

 その週末は、バックカントリーに挑む人達にとってとりわけ危険なものになりました。24時間にわたって66センチの湿った雪が古い層の上に降り積もりましたが、古い層にはその荷重に耐えるだけの強度がありませんでした。金曜日の午後3時から日曜日の午後3時の間に、101件の雪崩が報告されていました。前週の木曜日には、二人のマウンテンバイカーがキーストーンの近くで雪崩に巻き込まれました。コロラド雪崩情報センターは、モンテズマ地区に雪崩警報を発令していました。

「北面の斜面ではとりわけ積雪の中間層が弱いのです。今後シーズンが終わるまで、バックカントリーに入る人々にとって、危険要因となるでしょう。」−コロラド雪崩情報センター 雪崩予報士

事故:

 高校の体育教師でスキーのコーチでもある28才の日本人タカシは、1992年3月29日バックカントリースキーをするためにモンテズマ雪上車ツアーに参加していました。一行は登りは雪上車、下りはエキストリームスキーを6時間にわたり何事もなく楽しんでいました。エクイティー・シュートではどのルートを滑るべきかをガイドが9名のツアー客に対して細かく助言していました。しかしタカシは指示されたルートからほんのわずかに逸れたルートを滑ったのです。彼が指示に従うことができるだけの英語を充分に理解していたかを疑問視する声も聞かれます。午後3時半、その若い男性が雪崩に流される様子を他のツアー客達が目撃していました。

捜索:

 彼らはタカシの最終目撃地点を特定しようと必死でした。生存救出されたほとんどの人達は同行したパーティーのメンバーによって発見されていることを知っていたため、一人だけ救助を呼びに向かわせ、残りのメンバーでタカシを捜し続けたのです。ビーコンを使った捜索をしてもシグナルを捕らえることはできませんでした。

 確実に一人が埋没されている事故であったため、その日曜日の午後はあらゆる人達が出動しました。アラパホ・バシン、キーストーン、コッパー・マウンテンからは4組の雪崩救助犬とハンドラーが到着しました。残念ながら、捜索現場における二次雪崩の危険が高かったため、夜7時までに捜索を開始することができなくなりました。夕闇が迫り、充分な二次雪崩対策を取ることが不可能になりました。捜索本部は思い切って数名の捜索者だけをデブリに出すことに決めたのです。救助犬4頭、ハンドラー4名、そしてプローブ隊4名です。

 デブリの雪は固くしまっており容易に歩くことができました。しかし、暖かい日が数日続いたため、デブリの両サイドはツボ足で歩かざるおえませんでした。風はずっと山から谷へと吹いていました。

 私達がデブリに進入した場所の近くでヘイスティーがアラートしました。すぐにプローブ隊が確認作業を行いましたが、当りはありませんでした。1時間後、今度はスカディーが同じ場所で、しかも激しく反応しましたが、やはりプローブの当りはありませんでした。1時間半ほど捜索をしましたが、暗闇が迫り危険が増してきたため、撤退を命じられました。

 月曜日は朝7時に現場での捜索を再開しました。サミット、グランド、アルパインチームから捜索救助隊が続々と集結した様子は圧巻でした。デブリの上部にある不安定な斜面にヘリコプターガイド会社が爆薬を投下して雪を落とすのを、40名以上の捜索者と3組の雪崩救助犬チームがいまかいまかと待ちわびていました。前日の午後と夕方、私達が捜索した場所に新たなデブリができました。8人と4頭が捜索していた時に、この雪崩が起こったら一体どういうことになっていただろうかと想像するだけでもぞっとします。

 捜索再開の許可が下りると、私達は救助犬を1頭ずつ15分間捜索させることにしました。デブリを小さく区切り、そこを集中して犬に捜させる方法を取ったのです。前日の夕方に反応があった場所から12メートル上部でヘイスティーがアラートしました。彼はまたタカシのスキーポールにも反応し、その場所を教えてくれました。

 前回と今回の二箇所のアラートを結んだラインをプローブで捜索していくと、午前10時半に当りがありました。日曜日の夕方は山からの風、月曜日の朝は谷からの風が吹いていたため、これだけの距離の差がでたのではないかと推測しました。

 3.2メートルの深さに埋没されていた若い男性の遺体は11時半にようやく搬出されました。雪崩の衝撃でビーコンは体から剥ぎ取られ、その機能は完全に停止していました。2月25日以降、タカシはコロラド州で4人目の雪崩犠牲者となりました。

雪崩の特徴:

 雪崩はモンテズマ北面の斜面で起きました。捜索範囲は幅36メートル、高低差360メートル、デブリの深さは所により6メートル近くもありました。

教訓:

スキー場内だけでしかスキーをしたことがない人にとって、バックカントリーは別世界です。スリリングでもあると同時に危険が伴う場所でもあります。ガイド達は難しい決断を下すスキルと経験があるのですから、その指示には必ず従わなければなりません。

8人のツアー客は、ガイドの指示通りに一人ずつ滑るという正しい行動を取りました。

犠牲者のビーコンは作動しなくなりました。もしかしたら彼はジャケットの外側にビーコンを装着していた可能性があり、これは適切であるとはいえません。ジャケットの内ポケットにビーコンを入れておく習慣をつけておきましょう。

危険を慎重に見極め、不安定な場所に踏み込む際に少しでも不安を感じるのであれば、声に出す勇気を持ちましょう。

生存者の臭いと同様に、物品にも反応するよう救助犬を訓練しましょう。捜索活動ではどんな手掛かりも重要です。もちろん最も重要な手掛かりは犠牲者本人です。

常に風の向きと強さに気をつけましょう。風は積雪内部と雪面における臭いの動きに直接的な影響を与えます。風が強ければ強いほど、犬は犠牲者からより離れた場所でアラートします。埋没の深さにも同じことがいえるのです。埋没が深ければ深いほど、犬は犠牲者からより離れた場所でアラートします。

雪崩犠牲者が出るサイクルがあります。新雪のパウダースノーが非常に魅力的な時期に、ニュースで最近の雪崩や雪崩事故が報道されている場合、バックカントリーに踏み込むことは賢い選択ではありません。地元の雪崩情報センターなどで定期的に最新の情報を確認する習慣を身につけましょう。

 「救助犬活動を決意する時、これからやろうとしている活動がどれほど困難なものであるかなど誰も想像はしていないのです。楽天的な少女ポリアンナのように目を輝かせ、そして言うのです。「私の犬はきっと喜んでやるでしょう!」とか「犬と一緒に楽しめることに多くの時間をさけるなんて素敵じゃない?」しかし、白い禍に飲み込まれて突然この世を去り、犠牲者の統計に数を加えた若者の顔をじっと見つめる時初めて、厳しい現実を目の前につきつけられるのです。この時点で熱意が本物でない限り、より危険性の低い趣味を探す方が懸命でしょう。本当のところ…それが一番いいのです。誰でも救助犬ハンドラーになれるわけではないのですから。」(第一章「ハンドラーの準備」より)




























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